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2020/11/04 10:00
幡ヶ谷駅を降りて、徒歩7分。
閑静な住宅街の中に、アルミ缶が山のように積んである建物が見えてくる。
その名も「むつみ工房」。

歴史は古く、前身の「むつみ学園」が誕生したのは1954年。
障害児の学校教育が保障されていなかった時代に、親たちが立ち上がり設立された。
今では「障害のある人の働く場」として、「むつみ工房」にうまれ変わっている。
入り口をくぐると、見えてくるのは大量の生糸と、数台の織り機。

新型コロナウィルスの影響で通所する人数は限られているが、
この日も二人の男性が無心で糸を織っていた。
「写真、いいですか?」と声をかけると、コクリとだけ頷き、再び作業に戻る。

青とグレーと白。爽やかな色合いの糸を、手際良く、リズミカルに織り機で織っていく。
カシャン、カシャン、という優しい音が工房に響く。
今回「再入荷未定ショップ」にも出品している「マフラー」。
どう作るかは、障害のあるメンバーに任せている。
ちょっとしたほつれも、その瞬間だからこそ生まれた味。
事前にデザインを計画する人もいるが、ほとんどの方は感覚で作っている。
一見緻密なデザインに見えても、実はジャズセッションのようなアドリブで作られている。
すべて再現不可能な、一点もの。
しかも、多くのメンバーは、自分が織ったことを忘れる。
「これ、俺が織ったんだっけ?」と言うこともしばしば。
この「過去に執着しない」清々しさが、凛とした佇まいのマフラーを生んでいるのかもしれない。
二階に上がると雰囲気は一変する。
長机には無地のTシャツが広げられていて、男性メンバーが布用のペンで直接絵を描いている。

無秩序なようで、それでいて秩序がある絵が浮かび上がってくる。
完成すると、アイロンをかけ、絵を定着させる。
この工程を経ることで、洗濯しても色が落ちにくくなる(多少色落ちはするけれど、それも味だろう)。
目の前にあるモチーフを描写したり、図鑑を見ながら描くこともある。
Tシャツの中に出現するのは、障害のあるメンバーの「レンズ」越しに捕らえられた世界。
実際のものと、形状や色味は随分と違う。
だから面白い。
今回出品されたTシャツは、鳥の図鑑を見ながら描かれたそうだ。
もちろん、写真の鳥とは別ものに仕上がっている。
むつみ工房には今、39人のメンバーがいる。精神、知的、身体。障害は様々だ。
施設長の赤澤さんは言う。
「ちょっとした下請けをやることもあるけれど、納期が厳しいものは受けません。
利用者さんのペースに合わせてのんびりとやってます」
だからむつみ工房には、ゆったりとした、どこかホッとする時間が流れているのだろう。
「アットホームで家庭的な雰囲気は大切にしています。
がっつり作業をやるだけではなく、居場所という側面も強いんです。
他の事業所が合わなかった方が寄せ集まっています。
『最後の砦』と呼ばれたこともあるんです」
66年の歴史の中で、アットホームな雰囲気を保ち続けるのは、
並大抵の努力ではないだろう。
無理に手を広げすぎなかったからだと赤澤さんは言う。
一人ひとりのペースとリズムを尊重しながら、
丁寧にものづくりを進めていく。
だからこそ、むつみ工房で作られたものには、
悠久な時間が内包されている。
推薦:一般社団法人障害攻略課 澤田智洋/ライラ ・カシム